杜鵑



フィロスよ。
おまえは本当に、限りなく友情に近い愛を示す言葉として、生まれたく願ったのだろうか?
フィロスよ。
おまえは気付かない。
おまえは秀でた才能の持ち主であるが故に、そのすべての愛を友情としてしか見る事が
出来ない。
100を学び1を忘れるその性格は、いずれ致命的な一撃によって砕かれる末路なのだ。
フィロスよ。
おまえはいつか知るだろう。
友情を失ってみせた崖の上で、初めて現れる愛の表現を。
手放す事で改めて現れる愛の劇的さを。
決断の時は今。
崖には二人が転がっている。
親友と、最愛と…。
さあ、決断の時は今。
フィロスよ。
おまえには、死をも超えた愛を与える。


エロスよ。
おまえは本当に、男女間の愛を示す言葉として、生まれたく願ったのだろうか?
エロスよ。
おまえは無知である。
誰もが最初に行き着くであろう壁は異性との出会いだとして、その先の、おまえが思う以
上に聳え立つありえない深さの壁を目の前にして、ただただ怖気付く事しかかなわないの
だろう。
エロスよ。
おまえはその檻の中から、いつになったら解き放たれるのだ。
男女にのみ執着する浅ましい愛の矛先をいつになったら盾先に向けてやれるのだ。
私はいつまでも問おう。
男女のすべてを取り巻くおまえの愛がやがて蛹の様に固く覆われることを。
俗世間を殺せ。
愛に気づくべきだ。
機械も、同性も、動物達との触れ合いも、やがては愛へと変わりえるだろう事を。
エロスよ。
おまえには、生きるための愛を与える。


アガペよ。
おまえはきっと本当の意味で、神からの愛、或いは無償の愛を示す言葉として、この夜に
生まれてきたのだろう。
アガペよ。
おまえのしてきた事はそのすべてが無駄になろうとも刻まれ続ける愛なのだ。
夜の薄さを濃くするために、或いは海の薄さを濃くするために、酸素を失い、身体を失い、
意識さえ失っていく屍のような精神を糧に、今もおまえは振りまいているのだろう。
誰からも気づかれぬことを生きがいにするのだろう。
そして本当は、見返りを求めぬ慈悲深い神に憬れて、この夜を歩く決意をしたのだろう。
私には分かる。
おまえこそが愛。
私が日本人であったなら、間違いなく、おまえを愛と呼び、それ以外のすべてを「愛では
ない何か」と罵るだけに留まっただろう。
しかしだ、アガペよ。
おまえは欠落していた。
おまえは完璧な愛を示す言葉であるが故に、肝心なものを欠如している。
アガペよ。
おまえは気づけるだろうか。
失ったそれを取り戻せるだろうか。
アガペよ。
おまえには、生き死にを共にする、人間を、与える…。




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